高岡クラフツーリズモについて
◆伝統産業の地・高岡と青年会の存在
富山県高岡市は400年の歴史をもつモノづくりの街だ。全国的に知られている伝統産業は銅器や鋳物と漆。高岡銅器の起源は、1609年に、ときの加賀藩主・前田利長が高岡を開町した際、7人の天才鋳物職人を呼び寄せたことに始まるといわれる。千本格子が特徴的な金屋町の街並みは、当時の鋳物場の風情を今に伝えている。銅器と時を同じくして漆工の職人も同行したことから、漆器や螺鈿細工も根付いており、世界に誇る工芸品や仏具を生産してきた。
その高岡で、地場産業の振興のために動いている集団のひとつに、高岡伝統産業青年会がある。40歳以下の若手で構成された、メーカー、職人、問屋などによる組合で、業種に関係ない横のつながりをもつ組織だ。高岡という地名を知ってもらい、モノづくりにかける思いや技を伝えるためのさまざまな活動をおこない、伝統工芸の新しい在り方を提唱し続けている。他地域のイベントに出展して鋳物体験などをおこなったり、高岡を舞台にしたローカルショートムービー「すず」を製作するといったこともその一例。この青年会が主催する一般向けの工場見学ツアーが、高岡クラフツーリズモだ。
◆工場見学ツアーの企画と「高岡クラフト市場街」の開催
クラフツーリズモはもともと、県外のデザイナーやバイヤー、関係企業向けに工房を公開する仲間内だけのツアーとしておこなっていた。間口を一般向けに広げ、青年会の事業として始めたのは2012年のことだ。同年、28年の歴史をもつ高岡クラフトコンペティションの入選作品展示会を柱にしたイベント「高岡クラフト市場街」もスタート。市場街には食とクラフトのコラボレーションや体験型のプログラムなどが充実しており、5日間で2万人弱の来場者を記録するイベントに成長している。クラフツーリズモは現在、市場街のいちプログラムとして実施されており、モノづくりの現場を訪問してつくり手から直接ができる機会として、毎回満員御礼になる人気だ。
◆クラフツーリズモの成果
工場見学ツアーで大事にしているのは「自分たちの言葉で自分たちの現場の魅力を伝えること」(大寺幸八郎商店6代目・大寺康太さん)。そのため、ツアーの案内役は青年会メンバー自らが務めている。クラフツーリズモの実施により、自分の仕事を他人に伝えるという経験ができ、現場の職人達にとってはいい勉強の機会にもなっている。回を重ねるごとに説明やコミュニケーションの取り方もうまくなり、「来場者からどんどん意見をもらい、その人たちが次に訪れるときにはその意見がちゃんと反映されていた」(漆器くにもと・國本耕太郎さん)こともあったという。
◆高岡のファンをつくる活動を
今高岡が目指しているのは、モノづくりに限らず食や人、空気を含めた高岡自体を好きになってくれるファンを増やすこと。「デザイナーやバイヤーなどのプロフェッショナルに限っていえば6〜8割ほどはリピーターとして複数回訪れてくれる」(國本さん)と実感しており、今後それを一般の人にも広げたいという思いをもっている。北陸新幹線の開通で首都圏からのアクセスもしやすくなる2015年、クラフツーリズモはそのための重要なコンテンツとして期待されている。高岡のファンを増やし「高岡のものなら大丈夫」と安心してモノを買ってもらうための信頼を確かなものにすること。今後の青年会の活躍でそれが実現されていくことだろう。
代表的な企業のご紹介
高岡銅器、高岡漆器のふたつが2代伝統工芸。それぞれが細かい分業制にもなっており、銅器関連では原型製作所、鋳造所、着色所、問屋、漆器関連では木地づくり、塗り、螺鈿などの加飾といったように、さまざまな業種が存在している。仏具や工芸品の製造工房や、建築内装パネルや看板などの新たな領域でモノづくりに取り組む職人など、高岡伝統産業青年会のメンバーは多彩な顔ぶれで構成されている。
武蔵川工房【 螺鈿 】
伝統工芸高岡漆器における螺鈿のパイオニア。漆器の青貝加飾の制作を中心に、広く青貝螺鈿加飾の可能性を探り、建築、家具、金属製品、ガラス製品などへの青貝加飾も手掛けている。
アルベキ社【 漆 】
昔からある漆芸技法で見られる、 背景や葉脈、水の流れや雲の流れに使われていた表現を切り取り、彫刻塗や金銀箔などを織り交ぜてうるし看板、漆芸建材、アートパネル等を作っている。
嶋モデリング【 木型製作 】
最新技術の3次元CAD・CAMと昔ながらの伝統技術の両方を駆使して金属の原型を製作。木、樹脂、アクリルなどの素材に対応し、モックアップや、サンプル模型の製作等も手掛ける。
北辰工業所【 鋳物 】
高岡銅器の鋳物工房。鋳物のオーダー製作、業務用製品をはじめオリジナル商品も販売。工房を開放して鋳物体験教室を実施するなど、地域産業活性化のためのイベント活動もおこなっている。